判断能力が十分でない者の代わりに契約を締結し、財産を管理してくれる「成年後見人」
ここではその成年後見人の制度についてお話します。
成年後見人が出来ること
成年後見人の主な業務として、財産管理業務があげられます。日常的な部分では、預金通帳やキャッシュカードを預かり、日々に必要な分だけをお小遣い制のような形で分割して本人に渡します。他にも、公共料金などの各種支払や施設との入居契約、役所での手続などを代わりに行うことができます。不動産の売却などの契約行為も行うため、遺産分割協議をなども代わりに行うことができます。
ここでのポイントは以下のとおり。
1.悪質業者への対策
成年後見人の財産管理の機能のひとつとして「契約の取消権」があります。クーリングオフのようなものをイメージしてもらえればわかりやすいでしょう。本人(成年被後見人)が後見人の同意を得ずに行った契約について、日常的な買い物などを除き、取り消すことができます。クーリングオフとの違いは、成年後見人が知ってから5年間は取り消すことができるという点や、契約の種類に限られず取り消すことができるという点があげられます。
ただし、悪質業者の多くは、お金を払ったのとは音信不通になっていまい、契約を取り消そうにも連絡すらつかないという場合がほとんどです。
この取消権よりも、実質的に役に立つには分割交付のシステムでしょう。財産が一括して本人の手元にあると、騙し取られてしまうリスクがそれだけあるということになります。これをお小遣い制のような形で、一週間、二週間と短い期間に区切って、そのうちに必要な金銭だけを渡すようにすれば、それ以上のお金を失うリスクをなくすことができます。
この分割交付を行うシステムとして「生命保険信託」というものもありますので、分割交付の必要性がある場合は、こちらの記事もご覧ください。
2.本人の浪費への対策
こちらも ①と同じように、分割交付のシステムを利用することで可能となる対策です。
当然、こちらも必要な金額だけを渡すことになるので、それ以上の金額を浪費してしまうリスクを避けることができます。また成年後見人は、定期的に本人と面談をする義務がありますので、おかしなお金の使い方があれば、その時に浪費に気付くことができ、また本人の話を聞くことで、改めてお金の使い方の方針を一緒に考えていくこともできます。
当相談室に寄せられる相談の中で、精神障害を持っている方が、一時的に薬を飲み忘れてしまったり、体調の良し悪しなどによって高額な買い物をしてしまい、貯金をすべて使い果たしてしまった、というようなことは良く耳にします。
あまりに大きな財産を一度に手にしてしまうということは、障害を持っているかどうかに関わらず、その方にとって大きな負担になり得ます。成年後見制度を使わずとも、生前にも対策することもできますので、この分割交付の必要性については、ご留意いただきたいと思います。
3.契約の代理
上記にも記載しましたが、成年後見人は不動産の売買や、遺産分割協議を代わりに行うことができます。民法という法律のなかで、意思能力が不十分な者は、日常的な買い物などを除き、単独で契約を締結することができないという規定があります。
寝たきりの方や認知症の症状があるご高齢の方、また精神障害や知的障害を持つ方は、契約行為ができない場合があるということです。
この契約ができないという点で、親なきあと問題相談室に寄せられるご相談としては大きく分けて二つあります。
それは「不動産の売却」と「遺産分割協議」についてです。
不動産の売却手続について
障害を持つ子と、高齢な母親の二人暮らしで持ち家に住んでいるような事例。
母親の認知症が進んでしまうと、不動産の売却手続きができなくなるという点が前述のとおりです。こういった事例で、母親が子供の介護をしているような場合で、母親が体調を崩しグループホームに入らないといけなくなってしまったりしたとき、母親のグループホームの費用と子供の今後の生活費の両方を確保しなければならず、子供が母親の持ち家で一人で暮らしていくことが難しければ、子供のグループホームの費用も確保しなければなりません。
母親の資金力によっては、持ち家を売却しなければ資金が足りなくなるような場合もあり得ます。
この時に、不動産の売買ができないほど母親の認知症が進んでしまっていた場合は、母親のために成年後見人を選任する必要があります
また母親が亡くなるまで、不動産を売却せずに済んだとしても、子供が一人残されたときに子供のためにグループホームなどに入る資金を確保するために、不動産を売却する必要が出てくることもあり得ます。その際に、子供の持つ障害の度合いによっては、子供のために成年後見人を選任する必要が出てきます。
しかし、資金が足りないから不動産を売却したいのに、成年後見人にも月額の費用がかかってしまうことを考えると、本末転倒のような事態になってしまいがちです。
後述の任意後見契約の制度や別所記載の福祉型信託を使えば、不動産の売却については対策をとることができますので、事前準備を行うようにしましょう。
遺産分割協議について
相続人の中に,意思能力が不十分な方がいるような以下のような事例の場合です。
ⅰ高齢の夫妻で、妻が寝たきりで夫が亡くなった場合で、子供と妻の二人が相続人になった場合
ⅱ30代の子供二人が相続人で、そのうちの一人が知的障害を持っていて、意思能力が不十分な場合
このときどちらのケースの場合でも、相続の手続きを進めていくには、ⅰの場合であれば寝たきりの妻のための後見人や、ⅱの場合であれば知的障害を持つ子供のために後見人を選任する必要があります。
亡くなった方の名義の預貯金を引き出したり、不動産の名義を変えたりなどの相続の手続きには、基本的には有効な遺産分割協議をする必要があります。
その遺産分割協議を行うために後見人が必要なのですが、ⅰの場合に比べてⅱの場合は後見人を選任する必要性が高く、またその負担も大きいです。
ⅰの場合、後見人がつくのは、寝たきりの妻なのですが、やはり子供のころに後見人がつくことに比べれば、高齢になってからの後見人は、亡くなるまでの期間が短いため、後見人報酬などの負担も比較的少ないです。
反面、ⅱの場合、30代というまだ若いうちから後見人がついてしまうと、そこからの後見人報酬(後見人は一度つけると外せない。)を一生分考えないといけないので、注意する必要があるでしょう。
また、障害を持つ子供が亡くなった方の財産に依存して生活していることもあり、早急に相続手続きをしなければならない必要性があることが多いです。
もちろん対策はあります。こちらの記事のとおり、遺言があれば省略できる場合もあります。
障害を持つ子供がいる場合は、遺言などで相続の対策をすることは必須と言えるでしょう。
成年後見制度の利用の流れ
・成年後見人に財産をかわりに管理してほしい
・不動産の売却、遺産分割などどうしても契約上のことで後見人が必要に
・判断能力が不十分な子供が訴えられてしまった
などの事情があった際に、家庭裁判所に申し立てることで利用することができます。
ただし、一長一短のある制度なので、慎重に検討して利用するべきです。他の制度との組み合わせや、ある程度後見人の機能を代替できる制度もあるので、このブログで少しずつ解説いたします。
成年後見制度申し立て時の注意点
「必要書類が複雑かつ量が多い!」
本人の健康状態を示す書類や、戸籍や住民用・登記されていないことを証する書面などの
公的書類などを集めて、かつ申立書を作文しなくてはなりません。
裁判所の窓口である程度は教えてもらいつつ、家族が申し立てをすることもできるのですが、それなりに時間を取れる方でないと難しいのではないかと思われます。
かかる時間と手間、そして専門家への報酬とを比べて自身で申し立てするべきか依頼するべきかを検討すべきでしょう。
ファイナンシャルプランに注意
後述にもありますが、成年後見人報酬と今後のファイナンシャルプランとの兼ね合いについて注意するべきでしょう。
裁判所の基準として、後見人が受け取る報酬は月額2万円~、財産の総額があがるにつれて増加していきます。もちろん必ずしも2万円以上の報酬となる訳ではなく、ケースバイケースの中で裁判所が個別に判断するのですが、申し立ての際には、裁判所の基準をもとに検討すべきと考えます。
場合によっては障害年金もあるとは言え、申立時から一生に渡ってかかり続ける費用になるので、両親が必要なお金を生命保険等で用意する場合は、その分も計算にいれて考える必要があります。
もちろん資金ショートしてしまった際には、生活保護を申請するのも後見人としての役割でもあるのですが、生活保護に頼るべきか、また生活保護制度そのものの継続性についても考えるべきでしょう。
成年後見制度の注意点
ここまでもいくつか挙げてきましたが、成年後見制度には立法上の欠陥ともいえるような欠点があります。
1.成年後見人を本人や親族の意思で選べないこと。
成年後見人は家庭裁判所に申し立てることで、選任してもらうのですが、誰が後見人となるかは家庭裁判所が判断します。もちろん申し立ての際に「この人を後見人にしてほしいです」というような希望を伝えることはできるのですが、必ずしもその通りになるは限りません。
地域にもよるのですが家庭裁判所は、特に親族が後見人になることを避ける傾向にあります。過去の後見人による横領事件が、親族後見人によるものが多かったことや、作成する報告書が司法書士などの作ったものの方が正確であることから、司法書士・弁護士・社会福祉士等のいわゆる職業後見人が選ばれることが多いようです。
もちろん職業後見人が横領事件を一切起こしていないかというと、そういう訳ではありません。平成28年における職業後見人による横領被害総額は、約9000万円にも及びます。また、後見人と親族との間のトラブルもあり、どうしても家族以外のものに財産を管理されたりすることに抵抗がある方も多いようです。
成年後見人のほとんどは、本人の幸せを一番に考えて業務を行っていると私は信じています。しかし、現実問題、刑事事件となるようなトラブルも存在しているので、後見制度の利用に今一歩踏み出せないというようなお話も耳にします。
2.費用の問題
ファイナンシャルプランに注意!の項でも述べましたが、後見人には月額の報酬がかかります。裁判所のガイドラインでは月2万円~となっていいて、管理する財産額によって増額されます。
高齢の方で認知症のために成年後見人を選任する場合と異なり、知的障害・精神障害を持つ方が成年後見制度を利用する場合は、比較的若いうちから利用することになるので、生涯における負担額が大きいです。障害年金を利用しても、就労支援施設などの工賃では後見人費用を捻出することは難しいケースが多いです。そういった場合は成年後見人が生活保護の申請を代わりに行うのですが、できれば自分の子供には生活保護に頼ってほしくないという両親の声や、本人の意思としても生活保護には頼りたくないという想いがあることも少なくはないです。また、生活保護の制度自体も限られた財源の中で実現しているものなので、今後もずっとあるものとは限りません。そういったことも踏まえた上で、親なきあと問題の対策をしていくべきでしょう。
3.本人の意思よりも、財産の確保を優先しなければならないこともある。
成年後見人の義務として、本人の財産を守ることを重要視しなければなりません。ただその義務が本人の幸福につながるかというと、必ずしもそうではないというケースがあります。
たとえば、本人が障害年金を受け取りながらも一般就職をし、最低限の生活費に加えてある程度余裕のある収入を得ることができたので、両親に仕送りをしたいと思ったとき、これを後見人が承諾するかどうかについては、とても難しい問題です。おそらくはこの仕送りについて、後見人は承諾をしないのではないかと思われます。
この両親への仕送りは、本人から両親への「贈与契約」というものにあたります。このように一方的に本人の財産を減らす行為について、基本的に後見人は本人の財産を守るために、承諾してはならないというように考えられています。
同じように、高額な買い物や旅行なども、本人が希望したとしても後見人としては断る必要がある場合もあります。
このように、成年後見人が選任されることで、本人の自由に財産を使うことができなくなる可能性があり得ます。
本人の自己実現や人生のしあわせを考えると、そもそも後見人をつける時点でそうすべきかどうか検討する必要性があるでしょう。
4.後見人を一度つけると外せない。
①~③の欠点に加えて、この④があることで、後見人を利用したくないという方が多いかもしれません。基本的には意思能力が回復しない限り、後見人を外れることはありません。
では意思能力が回復することがある場合があるのかと言うと、ほとんどないのではないかと思われます。
ですので、必要なときだけ後見人を使うということはできません。たとえば不動産を売却をするときだけ後見人を選任するということや、遺産分割協議をするときにだけ後見人を選任するということはできません。
成年後見制度のまとめ
ここまででお伝えしたとおり、成年後見制度はどうしても使わざるを得ない場面がありながら欠点も目立つ制度です。利用する際には、慎重に検討をするべきでしょう。
分割交付などについては代替できる制度もあれば、遺言などを使えばそもそも後見人をつけなくとも済むようになることもあり得ます。本当に成年後見制度が必要なのかどうか、他の手段がないのかどうかきちんと検討すべきでしょう。
成年後見人制度でお悩みの際は、相談室ファミリアにお気軽にご相談ください。
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